捕えて、囚われて






遠くで動く夜を照らす数々の提灯。聞こえるのは虫の音と人の行き交う音と楽しげな声。
だがそれのどれもが現実味が無く。
まるで今自分達がいる場所よりも、遥か遠くの出来事かの様に。

自分の鼓膜に響く音は、互いの混ざり合う音と息遣い。
視界に映る全ては相手の、不敵なまでの笑みと重なる影。
それがこの世界の全てのように思えてしまうほど。

今は脳までも支配されている。






先ほど交わした口付けとは比べ様も無いほどの深い口付け。
口腔を弄るように動く舌が互いに絡まりあい、溢れる唾液を中で掻き混ぜる。
政宗の左手は、相変わらず布越しに幸村自身へと半端な愛撫を続けていた。
その為か幸村は、口付けの合間に息を漏らし政宗の両肩へと添えていた手は、突っぱねるように力が入る。
それでも決定的な刺激は与えず。ゆるゆるとした動作で撫で上げ幸村の反応を楽しむかの様に。
唾液に濡れた唇をそのままに、痕を残した鎖骨へと一つ啄ばむような口付けを落した。

着物の合せから手を差し入れ胸の飾りを指先で弾くようにして弄べば、中途半端な愛撫で高められた熱が敏感に反応して
幸村はそれにすら声を漏らし始める。
あまりの事に、政宗を睨むもののそれはまったく効果を成さない。
それどころかそのささやかな抵抗にすら政宗は熱が煽られるような感覚が内側にせり上がる。

肩から着物を肌蹴させ、露になった胸元に舌を這わして。胸の飾りを舌先で転がすようにすれば声があがった。
片方は指先で。もう片方は舌先で弄びながら。下への愛撫も続けられ幸村は声も抑える事ができず。

「い、・・かげん・・・しつこ、い・・・・っ」

「優しく抱いてやると言ったはずだ。貴様は大人しく、抱かれてればいい。」

「ふざけ、・・・っ、っ」

言葉の途中で、突然下への愛撫を強くされそのまま言葉は詰まってしまった。
気付けば下布は取り払われ露になったソレを政宗の手は容赦無く愛撫し、快楽を引き出していく。
その動きに合わせ、幸村は意思とは関係なく漏らす声は段々と声が高くなる。

もう少しでイけると。そこまで来た時突然近くの茂みがガサリと音を立てた。
それに驚き、幸村は別の意味で体を一瞬震わした。
明らかに人の気配を感じ、幸村は目で政宗へと訴えるのだが。一度止めた愛撫の手を、政宗はそのまま再開した。

「ま、政宗公・・・!」

「ここで、終えたら貴様も辛いだろう?」

否定はできないものの、それでもすぐ近くに人がいるというのにこのままできるわけもなく。
しかし声を荒げ止めようとすればかえって見つかってしまう危険性も有りどうする事もできず、ただ睨む事しかできない。
相変わらずに政宗の表情は楽しげで、そして与える愛撫は容赦無く熱を引き出してくる。
ただ幸村はその与えられる快楽に対し、声を漏らさぬよう唇を噛締めて耐えるばかり。

突然、政宗は前へと与えていた愛撫を止め、その愛撫によって溢れた幸村の精液を指に塗りたぐり秘所へと指を押し当てた。
ビクリと、身を震わせる幸村。構わず政宗はそこをヤワヤワと刺激し始める。
何度かその行為を繰り返し、少しずつ中へと指を押し挿れていった。第二関節まで入ったところで、軽く出し入れを繰り返す。
その度に声を耐えて噛締めた幸村の口からは、くぐもったような声が小刻みに漏れ出し始めた。

以前見つけた好い所を微妙に掠めながらも、決定的な刺激は与えず。
まるで蛇の生殺しかのような愛撫を続け、次第に指も増やしていく。
幸村は右手を政宗の肩へと突っぱねるようにして。左手はこれ以上声が漏れぬようにと口元を抑えて。
それでも容赦無く、政宗は中をかき回し不意に好い所を二度、三度と突付くように刺激する。

「っ、っ・・・ぅ、ぁあ、 あっ、・・・」

次第に、抑えている腕も弱くなり声も徐々にだが漏れ始めてきた。
政宗の与える快楽にだんだんと幸村自身の理性は殺がれ、突っぱねていた手はまるで縋るように着物を掴む。
その幸村の変化に、ニヤリと笑いを一つ浮かべれば。中をかき回していた指を一気に引き抜いた。

「あっ、 は、ぁ  っ、」

引き抜かれた事で安堵の溜息を洩らしたのだが、その瞬間を狙って政宗は自身を一気に突き挿れた。
奥へと突き入れられ、幸村は驚き政宗を睨み据えるばかりしかできず。
それを物ともしない政宗は右手を幸村の腰へと沿えて。左手で幸村の右太腿の裏側へと這わせて持ち上げた。

「やめっ、・・何を・・・」

「この方がより深く、貴様の中を犯せるだろう?」

秘所をさらされるかのような格好に驚き抗議しようとするも政宗は聞かず。
そのまま腰を推し進め次第に律動を激しくしていった。
腰が揺れるたびに口端から漏れる声。中を暴かれ、なけなしの理性は形を潜め。
人の気配があった事など既に忘れ、ただ幸村は与えられる快楽に溺れていく。

「ぁ、あ、 や、っ・・ふぅ、ぁ・・・まさ、 ね・・、っっ・・!」

「はっ、ぁ・・幸村・・っ」

絶頂を迎え、幸村の締め付けに政宗は中へと精を吐き出した。
それにまだ中が敏感に際立った状態の幸村は、ただビクビクと体を小さく震わせ荒く息をつくばかり。
片足だけで体を支えている状態のため、全身の力が抜け落ち今にも倒れそうになるものの。
腰に添えられた政宗の手と、背中の木とで何とか立っているという状態である。

「はっ、はっぁ・・・、 っ政宗公・・早く、退いて頂けないか・・・・?」

「冗談を言うな、折角だ。もう少し貴様の中を感じさせろ。」

「それこそ、ご冗談を・・・っ」

人を食ったかのような笑みで言われた言葉に幸村は眉を寄せ、早く退いてくれと言おうとしたのだが。
まだ繋がったままのソレを政宗が悪戯に動かした為、半端な所で言葉は切れてしまった。

「だ、大体・・・人が・・。」

「そこにいた奴ならば、あの後すぐに何処かへ消えたぞ。
 この暗がりだ、相手もこちらには気付いてなど居るまい。」

政宗言葉に、驚きながらも気配を改めて探る幸村。確かに今は気配など無く。
今そこに居る自分達以外の者は虫ぐらいのものだろう。
幸村の様子に喉を鳴らすようにして低く笑った。

「何だ貴様、気配も悟れぬほどに溺れたか?」

低く笑いを洩らしながら放たれ向けられた言葉に、幸村はカッとなりながら返す。

「あれは・・・貴殿が・・・っ!」

「いい加減に、少しは考えたらどうだ?」

幸村の言葉を政宗は遮る。
戸惑いながらもただ幸村は一言返すのが精一杯で。

「な、何を・・・。」

「何故俺の言葉一つが、そんなに気になったのか。
 わざわざ此処まで来る位だ、それ相応の理由があるはずだが?」

また低く笑いながら。向けられた言葉を反復させるでもなく幸村はただ、政宗を見つめていた視線を外した。

本当は、わかっていたのだろう。しかし認める事ができず。
認めれば、きっと惨めな思いをすると。

痛みと、優しさとを交互に。強く深く、傷つけた部分をそっと優しく撫ぜるように。
それはただ痛みを植え付けるより。ただ優しく扱うよりも残酷で。

それは忘れられぬほどに。忘れようとすればするほど深く、奥まで。
言葉の痛みに心を軋ませ、与えられる愛撫は優しくどこまでも体に侵食していった。



真綿で首を絞めるかのような苦しみを。いっそ愛だと囁いてしまおうか。
けれどそれを愛と囁くには、相手の心がわからず。


それが余計に不安で。



「いっそ・・・いっそ酷く扱えば・・・。
 ただ掻き抱いて、吐き捨てるようにしてくれればどんなに楽か・・・。」

唇を噛締めて震えだす声を必死で抑える。
それでも流れる物は止まらず。

「俺に、優しくなどするな・・・少しでも優しさを見せられると俺は惨めなほどにそれに救いを求めてしまう。」

「最初に突き落としてくれさえすれば俺は、貴殿を想わずにいられたというのに・・・。」

これではあまりにも惨めではないか。

漏れる声の合間に紡がれる言葉をただ黙って聞いていた政宗は、縋るようにして添えられていた手を掴み。
下へと向けた顔を顎を掴んで上へと向かせ視線を合わせた。

「突き落としなどしない。ギリギリまで追い詰めて、貴様の逃げ道など無くして。
 縋る者も、助けを求める者も俺一人だけになれば良い。」

「っ、」

「苦しみを与えつづけて、優しさの救いを見せて。
 垣間見せた優しさに縋り、苦しみの中でも救いを求めて、俺だけを求めろ。
 生憎、俺は素直に優しく扱えるほど、綺麗な存在じゃない。」

「俺は愛され方も愛し方も忘れた。だから俺はこんなやりかたでしか、お前を愛してやれない。」

止めど無く、流れる涙を獣のように舌で舐め取る。
自分が溺れたのだから。お前は俺に囚われろと。
呪詛の如く耳元で囁いて。

ただ幸村は政宗の言葉を心で反復させた。

「・・・貴殿は余計な言葉が多すぎて、肝心の言葉は何一つ向けてくれないのだな・・・。」

「俺は、言葉より行動で示す方が得意だ。」

言いながら、政宗は今までに無いほどの優しい口付けを幸村へと与え。
ただ静かにそれを受け入れた幸村は、唇が離れたあと、ビクリと体を振るわせた。

「・・・貴殿は・・・もしやまだ・・・」

「幸村、まだ夜は長い。
 それにこうしてお互い想いを確かめあったんだ。身体のほうも確かめあった方がいいだろう?」

「っこの、絶倫男!!」

もちろん幸村の言葉など無いにも同じで。
結局の所その後その場で長い夜を堪能する事となった二人は結局別れる頃には空が白み始めていた。



END >おまけへ