捕えて、囚われて






城へと連れて行かれて通された部屋。そこは謁見など、政務で使われるであろう場所。
怪しむべき人物ではあるものの、以前は客人としてきた人物である。
なによりまだ怪しい動きなど、そう言ったことが明確にされていない為そこへと通された幸村。
目の前には相変わらずに偉そうな態度で人を見下す政宗の姿があった。

「で、今度はここに何しにきた?」

理由の全てを話すわけには行かない。かといって、そのままだんまりを決め込めるほど甘い相手ではない。
そうなれば差し障り無い所まで話して納得してもらう他無いのだ。

「祭りがあると、佐助・・・・私の忍から聞いた。
 どんな物かと気になって来たまでの事です。」

本当ならば、いつもの砕けた話し方をすればもっと楽に話せるのだろうが。
如何せん傍らに、片倉が座している為それが敵わない。
以前の事もあってか、初めて会った時よりも会話には多少なりともぎこちなさが見て取れた。

「忍・・・か。偵察か何かにでも飛ばしていたのか?」

「その事に関してまで、貴殿に言う必要がありましょうか?」

イライラしながらも何とか保ちながら幸村は政宗の言葉に淡々と返していく。
刺々しい気配を、片倉は感じつつもただ二人のやり取りを見守るだけである。
幸村を見ていた政宗は、ふと外へと視線を外した。
なんとなくそこまで祭りの喧騒が聞こえてきそうな雰囲気が風に流れてくる。

「そうだな・・・小十郎、もう今日の政は殆ど片付いているはずだな。」

「ええ、その筈でございますが・・・・。」

政宗の突然の問いに、少しだけ戸惑いながらも普通に返す。
返って来た言葉を政宗は脳内で反復させ、なにやら考える仕草をする。
何かを、思いついた顔をすれば。常備している鉄扇を持ち、ビシッと幸村を指すと。

「幸村・・・これから俺と城下に出て祭りに付き合え。
 言っておくが貴様に拒否権なんて無い。」

有無を言わさぬ言動でそう告げる。
ただ驚き止る幸村。しかし片倉は慣れたもので。

「では、後の政務の程は如何なさいますか?」

「お前で処理できる分は処理しておけ。
 後は帰ってから俺がやる。」

「承知いたしました。」

幸村が現状をしっかりと把握し、反論できるまで思考が働く頃にはすでにそんな会話がやり取りされた後だった。
結局、政宗に強引に連れられるまま祭りへと出る事になってしまった幸村は。
本来の目的を半分しか果たせていない事よりも、こうやってまた政宗と二人きりになる事が苛立ちの原因となった。
しかしそんな事を知らない政宗はただ幸村と城下を歩くだけ。
所々に出された屋台や、いつもより沸き立つ人々。活気溢れる町。
そんな中を歩いていれば次第に日も暮れて、同時に幸村の逆立った気持ちも幾分か落ち着き祭りを素直に楽しめるまでになった。
留守を無理に任せてきた小助への土産の事もある。適当な店を見て見繕うかと、所々で品定めをしていた。


暫く歩いていた二人だが、政宗が簪屋の前で足を止める。
出店として構えた場所には色とりどりの、種類も豊富ななんとも言い難いほどの簪が並べられていた。
それを見ている政宗に、別段茶化すとかそう言った気持ちは無くただ単に疑問をぶつける。

「誰かへの、贈り物か?」

「いや・・・・そう言う訳ではない。」

言いながらも視線はまるで品定めしているかのよう。
この様子では暫く動かないだろうと幸村も、少し離れた所に立ちなんとなく簪を見ていた。
だが残念ながら買ったとしてもやる相手など一人も居ない。必然的に買う事は無いのだから、これではただの冷やかしだ。

「ほぉ、これなんかいいな。」

「お目が高いですね、それは一点物ですよ。」

藤を模した飾りのついた簪。それを手にした政宗にすかさず店員が売りに出ようとする。
暫くそれを見つめていた政宗は幸村を呼んだ。何だと思いながら振り返れば。

「思ったより似合うな。」

簪を幸村の髪に差したのだ。
あまりの出来事に店員も、幸村も固まってしまった。
ただあたりの喧騒と、祭りの賑わいだけが耳の中にこだまする。

やっとの事で思考が浮上した幸村は怒りも隠さず刺された簪を、一応は売り物だからそっと外して。

「貴殿は・・・・俺を馬鹿にしているのか・・!」

「何故だ?俺は似合うと思ったからそう言ったまでだ。」

何がおかしいと。心底そう思っているかのような顔でそう言ってのける。
その余裕のある姿が更に腹立たしい。

「大体男に簪など差すな!」

「貴様は意外と固執した考えをもっているんだな。」

呆れたような顔で言ってしまうものだから。なにやら自分の方が間違っているかのような気にすらなってくる。
こうなるとここまで頭にきて怒りに任せ声を荒げている、自分のほうが馬鹿のように思えてならない。

「だいたい簪が女の飾りだと、誰がいつ決めた?男がつけても別に構わないだろう。
 何事も、試してみないとわからんものがある。」

なぁ?と店員の男に問い掛ければ男は困りながらも「へ、へぇ・・・」と一言漏らす。
これ以上何を言っても、この屈折した考えの持ち主には何も通用しないと思い幸村は簪を卓上へと置きその場からすぐに離れる。
政宗へと背を向けて早足で進む幸村。その後姿を見て政宗は、またいつか見せたような悪戯を思いついたかのような笑みを浮かべ後を追った。














喧騒が少し遠くに感じられる林の中。
怒りと、人込みと熱気に煽られた幸村は、その熱を冷ます為に流れる風を感じた。
ほんの少ししてやってきた政宗はただ無言のままに幸村に近づく。
見向きもしない幸村に、政宗はもう一度問う。

「幸村、貴様は何故また奥州に来た? 祭りだけが目的ではないだろう?」

「っ・・・・・・、何故、あの時あのような言葉を投げつけた。」

その真意を知りたいと。相変わらず背を向けたままで問い返す。
後ろで、政宗が笑う気配を感じる。

「あのような、とは?」

「俺を・・・嫌いではないと・・・。あのような言葉、無ければどれだけ貴殿の事など気にかけずにすんだ物か・・・!」

振り返り、吐きつけるが。しかし視界に広がるのはどこまでも余裕のある政宗の表情で。
それが逆に幸村の神経を逆撫でしてしまう。

「あの言葉か・・・・正直あの時は俺も、何故あんな言葉を貴様に言ったのかなど・・・わからん。」

政宗の言葉に一瞬だけ表情が動いた幸村だがそれ以上は何もなく。
幸村に何か言われる前に、政宗はもう一つだけ言葉を零した。

「俺の言葉が気にかかってここまで来るとは・・・俺に溺れでもしたか?」

「誰が、貴殿になぞ・・・・。」

いつまでも、翻弄されっぱなしは癪だと。
幸村は一度視線を外してもう一度あわせればいつしか浮かべたであろうどこまでも高慢な笑み。

「貴殿こそ、この俺に溺れでもしたのか?」

言い放ってやればただ政宗は楽しげに、低く喉を鳴らしながら笑った。
内心それを不快に思いつつも微塵も感じさせず、ただ政宗を見ている。
しかし、感情に体がついていかなかったのか。政宗が行動を起こすと思った時も、体は動かず。
幸村の背後にあった木へと、政宗は両手をついて逃げ道を塞いだ。

「ああ、溺れた。」

顔を、近づけて囁く。
間近で、甘く静かに囁かれる言葉にそういった事に耐性の出来ていない事もあってか幸村は。
ただ赤くなる顔を止める事も隠す事も出来ずに声を荒げた。

「き、貴殿は俺を・・・俺をからかっているのか・・!!」

「今更何を言う?あの時は俺に抱かれた口だろう?」

「あの時はあの時で、今は・・・・」

次に紡がれるであろう言葉は音にならず。政宗は場所も弁えずに幸村の口を塞いだ。
とは言うものの、今は祭り。町の中は人が賑わい行き交うが、一つ二つ道を外れたこんな場所に人など来る筈も無い。
わざと音を立てて、貪るようにして唇を奪う政宗に翻弄される幸村はもともとの負けん気の強さもあってか。
ただ翻弄されるだけでは癪に障ると、口を離され政宗が次へ行為を進めようとする瞬間を狙ってそれを制止してしゃがみ込んだ。

何だと思う暇も無く、政宗の前を寛げた幸村はまだ、僅かにしか反応していない政宗のソレを一瞬迷いはするものの、口に含んだ。
突然の幸村の行動に流石の政宗も驚きビクリと身を震わせたが、稚拙な舌使いにも関わらず少しずつだが反応を示している。

当たり前だが、こういった行為になれていない幸村。
しかしながら同じ男として、どこをどうすればどう感じるのか。少し考えればわかる事で。
それこそ前に政宗の言った言葉そのものであり。
だが幸村はそんな事は念頭になく、ただ持ち合わせている負けず嫌いの性格も相俟って。
何度も口から出し入れを繰り返し根元から舐めあげたりなど。慣れない事も遭って多少ぎこちない物の政宗の快楽を引き出すのには充分すぎるほど。
流石の政宗も、そこまでされては声も漏らさずにはいられず。所々で小さく短い声を漏らすと、幸村は小さく笑んだ。

だんだんと荒げてくる政宗の息遣い。もう少し、というところまで来て突然政宗は幸村の顔を両手で押し離した。
だが少しだけ遅く。何よりも顔が離れる際に少しだけ幸村の歯が掠めたせいで政宗はそのまま幸村の顔へとかけてしまう。

「っ、」

息を飲むような。そんな仕草をした政宗をそのまま下から見上げ幸村は、口元に散った政宗の吐き出したソレを舐め取りながら
口角を吊り上げ勝ち誇ったような笑みを浮かべて言い放つ。

「・・・良かっただろう?」

「貴様・・・後悔するぞ。」

襟を乱暴に掴み立たせると木へと押し付けた。
口元に散った自らの精液を舐め取ると、そのまま幸村の口を塞ぐ。
前はしつこい位にその唇を貪った政宗だったが今回は淡白なほどに。舌を這わせて鎖骨に反って舐めると、軽く噛んで痕をつける。
上への愛撫を少しずつ下へと移動させながら、空いた左手で着物の裾から手を差し入れて幸村のソレを優しく撫ぜた。
痛みを伴った物とはいえ、一度快楽を知った体はその愛撫に同じ物を見つけ意思とは裏腹に素直なまでに反応を示す。

「お、女のように・・・抱くなと・・・・っ、」

「今日は優しく扱ってやる。
 痛みばかり与えていたら、意味が無いだろう?」


何の意味だと、問う前にその唇はもう一度塞がれた。



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