捻じ伏せて






なんでこうなったとか。どうしてこうなったとか。
そんな経緯は本当にどうでもいい。

ただ興味があった。だからそれなりの理由を作って会いにきた。そしたらこうなった。
本当、ただそれだけだ。

もう少し分かりやすく言うなら。
互いの性格が似たり寄ったりで静かにぶつかり合って。
意地を張ってそしてこの状況を作り上げたのだろう。そうとしか言えない。
もう他の理由なんて考えるのも馬鹿馬鹿しい。
それぐらいに。


今は相手に互いに溺れている。







突然の訪問ではあったものの。一応の事、使いとしてやってきたから客としての対応をされている幸村。
早馬を飛ばしてきたわけでもなく、奥州についた頃には日も傾き始めていた。
一泊していけと、ここの城主である政宗に言われ遠慮なんか入らないし、何より興味を抱いた相手を知るいい機会だとその申し出を受け入れた。
幸村が通された部屋で寛いでいると、月が天頂に差し掛かった頃。家臣の一人が部屋を訪れた。

「幸村様・・・殿が是非今宵の酒の相手をと・・・・。」

客としてここにいる以上、相手の機嫌を損ねるわけにも行かない。
それに話せば見えてくるものもあるし、本来の目的も果たせるというもので。政宗からの誘いは幸村にとって、絶好の機会であったのだ。
断る理由も無く、何より酒好きな幸村は奥州の酒も楽しめると申し出を受け入れた。

案内され通された部屋。そこは政宗の自室。
中へ入り家臣はすぐに下がる。ここにいるのは政宗と幸村の二人だけだ。
そのせいなのか、互いの呼吸すら聞き取れるような気がする感覚を幸村は感じた。

「どうした?そんな所に居ないでもっとこっちにきたらどうだ?」

言われて初めて、いまだ自分がそこに留まっていた事に気付いた。

(空気に飲まれた・・・・か?)

内心少し戸惑いながら、しかし表にはけして見せずにゆっくりと近づく。
始終、飽く迄客として。目上に対する態度を取る幸村。差し出された杯に酒を注ぎ。自分も政宗から酒を注がれる。
互いに飲みながら合間合間に他愛のない話をしていた。
話が進むと同時に次第に幸村の中で政宗への興味が殺がれていく。

(噂の独眼竜も、この程度の男であったか・・・・。)

溜息をつく変わりに酒を一口喉に通した。コクリと飲み込むと不意に視線を感じる。
政宗の方を見れば、なにやら突き刺さるほどの視線を惜しげなく。むしろ不躾なまでに突きつけてくる。

「・・・何か?」

興味がそがれた相手からの視線は不快極まりなく。思わず今まで装っていた表情も全て投げ捨て訝しげな表情をぶつけた。
政宗はそんな幸村の態度に腹を立てるどころか楽しげに笑みを零す。

「やっと本当の顔見せやがったな。」

「なにを・・・・。」

「俺が、気付いていないとでも?
 どうせ使いの理由なんて、ついでなのだろう?本当の理由は、貴様自身が持っているはずだ。」

盃を持ったほうの指を幸村に突きつけながら。実に楽しげに笑い囁く。

「俺は、装っている奴が嫌いだ。
 いっそ本性を曝け出しているやつの方が好感が持てる。
 たとえそれが殺意であろうと、憎しみであろうとな。」

なんとも屈折した性格なのか。
だがそれすら気にはならないほどに、幸村は少なからず衝撃を受けた。

上手く装っていたと思った。それなのにそれすら見破っていたという事に、幸村は一度殺がれた興味がまた湧いた。
されどそれまで悟られるのが気に食わない幸村は冷めた表情のまま政宗を見つめる。

「世迷言を・・・。この世に本性を晒し接する人間がどれほど居るか・・・。
 装っていてこそ成り立つ関係もあるというのに、城主たる貴殿がそれではこの地も先は短いな。」

装う事をやめた幸村はそのまま鼻で笑うかのような態度をとりそう言葉を吐いた。
ますます、政宗の笑みは深くなるばかり。

「貴様の目的は一体なんだ?ただこうして酒を酌み交しての腹の探りあいが目的か?」

「まさか・・・・それほど俺も暇ではない。ただ貴殿に興味が湧いた。ただそれだけだ。
 それ以外の理由を欲するのなら、いくらでも作ってやろう。それこそ貴殿の嫌う装った人間関係で。」

完全に、本性を曝け出した幸村は政宗同様深々と笑みを刻み込んだ。
その笑みはどこか人を見下したような。
それでも政宗は気分を害したという素振りも態度も無く。ただ幸村を楽しげに見ているばかり。

「ははははっ。貴様、面白いな。」

「光栄・・・と言えば政宗公、貴殿は満足か?」

余裕のある政宗に、幾分か苛立ちを感じる。
それでもそんな腹の底まで見られるのはもっと癪に障る。
そうなれば、とことんまで突き放せばいいことだと、幸村は本来の立場もここを訪れた理由の程も忘れた態度をとるばかり。
だがその反抗的な態度の一つ一つがどうにも政宗の興味を強くさせているようで。

「っ!?」

「そのような言葉で満足できるほど、俺は腹の浅い男ではない。
 高慢な態度をとる貴様がどんな風に啼くのか、聞いてみなくてはな。」

気付けば押し倒され、持っていた盃は畳に転がり酒が零れた。
頭の端で、美味い酒だったというのに勿体無いと思いつつも自分を押し倒す目の前の男をどうしてくれようと。
幸村はただ考えた。
だが考えるだけ無駄だったようで。気付けば着物の合わせから手を這わされ、それにゾクリと背中が震える。
実際こういった行為を受けるのは初めてで。それでも弱い部分なんか見せるものかと元の性格もあり幸村は少し長い政宗の髪を掴むとぐいっと引き寄せた。
さすがに髪を引っ張られ痛みを感じ顔を歪めた政宗に幸村はお構いなく顔を近づけた。
唇が触れるか否かのギリギリの所で静かに、低く呟く。

「啼かせたいのなら、啼かせてみればいい。」

挑戦的な笑みで呟き、政宗が口を開く前に自分の唇を押し当てた。
もとより抱く気で押し倒したのだから、来る者は拒まず。政宗はそのまま押し付けられた幸村の唇を舌で割り開いて口内を舌で犯す。
唾液の混ざり合う音と、互いの荒くなる呼吸だけが部屋に響いた。



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