思い込み戦隊妄想レンジャー

+++01:新たな敵と。





「私は、美少女!!

見るからに40代ほどのおばさんと思える人が声も高らかに。
全身何と形容していいのか分からない、まさにおばさん色なタイツを見事に嫌なぐらい着こなし崖の上からそう叫んだ時は。
正直言って拓也達5人はどうして良いのか全く分からなかった。

「何が美少女よ!
 あなたなんかむしろ微妙の微の字で微少女・・いえ、微醜婆(びしゅうば)がお似合いよ!!」

「なんだってこのクソアマ!」

隣で綾香が果敢にその自称美少女のおばさんに食って掛かる。
まずは突っ込めるところからツッコんで置こう、そういうことだろう。
しかしおばさんも負けてない。
おばさんパワー炸裂な応戦だ。はっきり言えばこんな戦い男は遠くから見ている事をお勧めする。
女同士の言い合いに男が入ればダブル集中攻撃を食らわされる事請け合い。
心身ともに削り取られたくなければ係わり合いにならないのが得策だ。











そもそも何でこんな事になったのか。何でこんなおばさん含め濃厚なメンバーがまた5人も出てきたのか。
拓也は隣でまだ言い続ける綾香の毒舌マシンガンを聞きながらその脳内ではただただ思い浮かぶただ一人の顔。

それは自分達を地球を突如現れた宇宙人、ガロン将軍から守るべく正義のお決まりの戦隊者に仕立て上げた張本人。

キング。

脳内ではやけに高らかに、憎らしいほどに爽やかな笑い方をしているようにしか見えないのは常日頃からそんな風にしか見ていないせいだろうか。
だが今は目の前で繰り広げられる綾香とおばさんの言い合いの原因を作ったであろうキングを問いただしたい。
ただ問いただすだけではなく、キングの横っ面をメリケン使用で殴りつけながら問いただしたい気持ちで一杯なそんな夏のある日。



やけに耳に響いたのはおばさんのありえない台詞と。
綾香の毒舌マシンガントークと。
辺りに響く暢気な蝉の声だった。












「おはよう!」

爽やかな朝日が差し込む自室。
布団の上で、少し寝苦しそうに横たわっている自分とそれを仁王立ちで見下すキング。



キング?


うぉぁ!?

「朝からずいぶん騒がしいなー、レッド。」

「な、何でアンタがここに!?」

それも当然な問いである。
何せ今まで自分は寝ていた。それに一人暮らし。決して自分の人生を狂わした張本人であるキングを泊めたわけではない。
だと言うのに何故か朝一目覚め一発、眼前に広がったのはキングの見下す視線。
不快極まりない。

「いやー、ほら、またガロンたちが攻めてきたりしたらさ、一々私が呼びに行くの大変じゃん?
 だからこれ支給しとくから。」

渡されたのはコテコテの戦隊物の腕に巻く、所謂変身ベルトとかが簡略化された現代風な仕様の物。
しかしこんな物腕に巻いてバイトに出たくない。
あからさま過ぎてあの5人レンジャーが自分だとばれる、とか以前に。

「いい歳こいた大人がこんなもん巻いて街中闊歩出来るかボケぇ!!」

「闊歩だなんていってる時点で確かに大人だな。」

「返すところが違うだろうが!」

朝から血糖値あげさせて何が楽しいんだ。
自分は罷り間違ってもブルーみたいに不健康の階段を転がり落ちたくなんかない。
そう言えば次に集まった時、ブルーが居なかったらとりあえず彼が存命であるかどうかが気に掛かる所だから、そこから考えればこういったアイテムはやはり必要だろう。
そもそも、モーニングコールついでに生存確認もしたほうがいいのではないだろうかといらない心配までしてしまう。

「朝からあまり騒々しいとご近所さんの迷惑だぞ☆」

「思い切り殴っていいなら大人しくする。」

「うーん、却下!」

いつまで自分はキングと朝一にこんなコントを繰り広げていなければならないのかと思った矢先だった。
がっしりと腕をつかまれて気付けば左腕に巻かれていた。

「おい、勝手に巻くなよ!!」

「これは私からの指令を送ったり、君達メンバー間での連絡を楽にとったりできる携帯のような物だから、無くすなよ。
 あと、腕を翳しつつ自分のカラー名を言って『チャージ!』って叫べば変身だってできるすぐれものだ!」

人の話を聞け。

元より人の話を聞くような奴ではないと思っていたが、こうまで尽く無視されると腹立たしすぎる。
キングに対しては、腹立たしさが通り過ぎる事は無いだろう。いつでもその怒りがまさにチャージだ。
しかも何だ、変身するたびその恥かしい台詞を叫ばなければならないのか。

子供に夢を与える戦隊物に出ている方々を、今日ほど尊敬した事は無い。

そんな思いを馳せている拓也は置いて窓から出て行くキング。
せめて玄関から出て行けこの不法侵入者、と言っても無駄だろうから心で突っ込みをいれる。

「あー、そうそう、他のメンバーにも渡しといてねー。」

軽いノリでそう言って今度こそ去って行った。
空き缶投げたろかと思ったがそれも思い留まる。
しかしここで問題が生じた。




「渡しとけって・・・・家しらねぇよ俺。」



さあどうするリーダー!!





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