思い込み戦隊妄想レンジャー
+++02:メンバーと出会いと
キングの不法侵入&最悪な目覚めの一発から3日。
未だに預けられたほかメンバー分の変身バンドは渡せていない。
軽くジャイ○ンリサイタルのチケットの気分だ。
そして自分はジャイ○ン(キング)に配っとけよと言われ無理矢理渡されたの○太だろうと一人、拓也は悲観にくれていた。
しかしやはり(一応)リーダーなのであまりに無責任な行動は取れない。
そんな事したらキングには理不尽な罵声を浴びせられそうだし、メンバーからは怒涛の如く色んな痛い言葉をぶつけられるだろう。
拓也はそんな自分のあってはならない未来予想図を想像して、軽く泣きそうになった。
とにかく何とか渡そうと努力の一歩は朝のジョギングから。
何せこの前はジョギングによってショッキングな出会いを果たしたのだから。
ここで会わなきゃキングを呪っておこうと思った。
30分後、拓也の中では手頃な五寸釘と藁のご購入できる場所を頭の中で回らせる事となる。
「何でこういう時に限って、裕也さん来ないんだよ!?」
一人悪態をつきながら公園の中を先ほどからぐるぐると回っている。まるでこれではイベントに躓いたRPGの主人公みたいだ。
何処にイベントスイッチがあるんだ。村人Aは何処だ。などと訳の解らない事まで考えながら拓也は必死にそのあたりを探した。
しかし別にかくれんぼをしているわけではないのだから、探す意味は無いといっても良いだろう。だがそれを突っ込むものは誰も居ない。
もう諦めて帰ろうかと考えていた拓也。だがその耳に聞き覚えのある声が聞こえた。
それは探していた裕也の声である。
何とか見つけられたとほっと胸をなでおろした矢先、視界に捕らえた裕也の姿を無かった物として処理して逃げたい衝動に駆られたのは言うまでも無い。
その格好と言うのがこの梅雨のジメジメした時期にありえないくらいの厚着だ。
何ゆえダッフルコートなど来てジョギングしているのだろう。
ありえない。
ありえなさ過ぎる。
しかもさり気なく、下には更に厚手のセーターまでご丁寧に着用済みだ。
そんなコンボ攻撃はいらない。
なんだか段々とこちらの方へ走ってくるのは気のせいではなかろうか。
できれば気のせいであって欲しいが、世の中そんな上手くいかない。
いかなすぎて、今では拓也は過去上京をしたいと言ってここまで夢もって出てきた自分を心底呪い殺したいぐらいだった。
「あ、拓也さん!」
裕也が現れた。
どうしますか?
コマンド 逃げる
「どうしたんですか?俺ですよ?」
しかし回りこまれてしまった。
本当は渡すものが会ったから出会えてラッキーな所なのだろう。だがこの状況は、果たして素直に喜んでいいのだろうか。
ここまであからさまに視界の暴力的人間は居ないだろう。見ているだけで蒸す。
攻撃的過ぎる。オ○ムの攻撃色よりも明らかに攻撃的だ。
今なら金色の野に降り立つ青き衣を纏った者になってもいいが、多分そこに立っているのはブルーだろう。
だってあいつ服だけでなく肌も青色。究極の青の衣だ。まさに最強装備。
5人の内では裕也の持つ色は、グリーンと言う安らぎ的な色を担当していると言うのに。むしろ自分が攻撃色だというのに何だこの違いは。
拓也の中で明らかに疑問と疑念が渦巻いているが、そんな事を裕也が知るはずも無く。
「あ、あの裕也さん・・・これ・・・・キングからで・・・・。」
「ああ、昨日連絡ありましたよ、これですね!使い方とかは聞いていますから大丈夫ですよ。
あ、それじゃ俺はまだジョギング中なので。それじゃ!」
何とか裕也に物を渡せた。だが釈然としない。
「わざわざ行ったんだったら最初からお前が渡せよ!!!」
公園の真ん中でただ拓也の怒りの一言のみが虚しく響いた。
その後公園から200m離れた所で裕也は暑さゆえに倒れて救急車に運ばれた事を拓也は知らない。
朝の爽やかな空気なんてどこぞへと消え去り、不快極まりない目覚めと出会いを果たして数時間。
何とか裕也に変身バンドを渡す事が出来た辺りでもうすでにバイトへ行く時間となってしまった。
ヒーローだって腹は減る。寝る所だって大事。そもそもヒーローになる予定の無かった人生だ。
金は必要だからバイトだって毎日入れている。フルで入っている。
もうバイト人生でいいよ。と子供達に一応の事夢と希望を与えるヒーローのリーダーにも拘らず、本人が夢も希望も欠片も無い。
結構世知辛い。
いつもの如くおやっさんと忙しい昼の時間帯を切り盛りしていた拓也。
忙しく動いていたおかげか、脳内から今朝の出来事なんか忘れ去られようとしていた頃である。
一人の客が訪れた。
「あ・・・・。」
ブラックこと庵である。
いつぞやの初対面もこの店で、あろうことか和食専門店でカレーを頼んできやがった男だ。
ここで会えたのは嬉しいというか、なんというか。棚ぼたといえばいいのだろうか。
とにかくさっさと渡すのが一番だろう。
庵へと変身バンドを渡そうとしたのだが。
「すいません、カレーを一つ・・・・福神漬けは大盛りで。」
先手を打たれた。しかもまたカレー。
あまつさえ、メニューもみやがらねぇ始末。
お前どれだけカレーが好きなんだよ。そんなにカレーが好きならカレー粉でも持ち歩け。
前回もそうだったがついでといわんばかりに、福神漬けを多めに頼むほどの肝の持ち主だ。
「お客さん・・前もそうだったがうちはカレーは置いてなくってねぇ。」
おやっさんは困り気味に、ちょっとこめかみを青くさせながら何とか堪えつつ丁寧に断る。
こう言うのを、大人というのだろうか。
拓也はおやっさんの耐えている姿をその目に焼き付けておいた。
「・・・・食べ物の王様のカレーを置いて居ない店なんざ、店じゃない・・・。」
庵は言うだけ言って去っていった。何なんだおまえ。冷やかしかこのやろう。
思わず渡そうと思って持っていたブラック用のバンドを握りつぶしそうになってしまった。
だがこのまま渡さず仕舞いでは、また同じ事を繰り返すのみである。それにもし明日にでも敵がせめて来たら、集まりの悪さからきっと非難轟々。
何だこれ、何の苛めだ。俺が何をした。嫌なにもしていない。むしろされている方だ。
リーダーという立場なだけでいわれの無い非難を浴びせられる。なんとも辛く悲しい事だろうか。
「あの、店長、俺ちょっと出てきます。」
許可を貰ってすぐに店を出る。まだ視界に捉えられる場所をノソリノソリと気だるげに歩いている庵の姿。
慌てて追いかけ、呼び止めればやはり気だるげに。むしろめんどくさそうな顔で振り返ってきた。あからさま過ぎてちょっとむかついた。
「何です、リーダー・・・?」
「・・・あんまり街中でリーダー呼ばないで・・・、これ、キングから渡された奴。」
あえて特に説明もなしに渡せば、暫くそれを見つめていた。
めんどくさげな顔は変わらないが微かに寄った眉間の皺から、不快な気分がひしひしと伝わってくる。
意外と感情の表現は著しい。新発見だ。
「・・・・これ、つけろって?」
「たぶんつけなきゃキングが夜中(窓から)部屋に侵入すると思う・・・。」
渡された事の発端を話せば余計にその眉間に皺が寄る。でもなまじ顔がいいもんだから睨む顔が怖い。
周りから見ればどう考えても、俺が何か仕出かして庵を怒らせて、メンチ切らせているような図にしか見えないだろう。
庵はそんな拓也の思考など知る由もなく、暫くバンドを睨みつけたあとに渋々といった感じにポケットに仕舞いこんだ。
「・・・リーダーも大変だな・・・。」
思わぬ労いの言葉を向けて去っていく庵。
予期せぬ言葉に暫しその場に固まっていた拓也だったが、気付いた時にはちょっとだけ目頭が熱くなっていた。
一番悪いのはキングであって、メンバーには非が無い。ただちょっと我が強くて個性的で、自分勝手なところがあるだけなんだ。
そういった所を全部理解して許容してやるのがリーダーというものなのだろうと、拓也は改めて自分の立場というものを考えた。
でもそういった思いやりがあるのならば、店でカレーを頼むのはいい加減やめて欲しいなと思うのもまた然り。
思っても仕方がないことだと自嘲気味に笑いながら店へと戻ろうとした拓也だったが、その途中でストリートミュージシャンという奴だろう
ギターを弾きながら綺麗な声で歌っている人を見つける。
なんとなく引き寄せられていってみたが、残念な事に歌は終わってしまった。歌っていたのは男で、見るからに女性に人気が出そうななかなかのイケメン。
拓也の存在に気付いたのかギターを片付けながらこっちに顔を向けてきて、ちょっとそのまま固まって次には笑いかけてくる。
とりあえず拓也は会釈で返しておいた。
「あの、この辺りで食べ物屋ってありませんか?」
「あ、それなら俺のバイト先が・・・・あ、まだバイト途中だった。」
ちょっと時間をかけすぎたなと思いながらも、とりあえず客を連れて行けばどやされる事は無いだろう。
結構ちゃっかりした性格の拓也である。
男の名は東 宵(あずま しょう)というらしく、本当はバンドをやっているらしいのだが、今日は天気がいいので外で気晴らしに歌いにきたとの事。
どうも話しやすく、店についた頃には肩の力は抜けていた。
だが、拓也は知らない。
この出会いは偶然であり、また必然だったという事を。
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