思い込み戦隊妄想レンジャー

+++01:出会いは突然それは必然? 前編





柏木拓也23歳。

ごくごく一般家庭に育ち、今はバイトで生計を立てる一人暮らし。
高校卒業と共に田舎から東京の大学進学を夢見て上京。
しかし現実は甘くなく、彼の夢は脆くも崩れ去り。
仕事を探すも不景気のこの世の中、人の集まる東京でもこれと言って良い仕事は無く今はバイトに明け暮れる毎日だ。

そんな彼は毎朝6時半に起きて軽いジョギングをする事から始まる。
今日もいつもと変わらずにいつもと同じ時間に起きて。
いつもと同じ時間にバイトへと行く予定だった。

もちろん家を出てしばらく走った所までは一緒だったのだが。

(あ。)

いつものコースである道は昨日から道路工事で通行止め。
なのでしかたなく横道をそれて公園へと入る。
これが全ての人生のベクトルを変える発端であった事は今の彼には気付いていない。

(あれ?
 あの人あんな所にうずくまってどうしたんだろう??)

公園の中を走っていた時、道の端にうずくまり動かない人を発見。
すぐ様近寄って声をかける。

「あの‥どうかしましたか?」

「・・・あ・・いや、ちょっと気分が悪くなってしまって。
 でも十分休んだんでもう大丈夫です。
 あ・・・あと‥この公園からは早く出た方がいいですよ・・・へ、変な人が居ます・・から。」

そう言って青白い顔をしたその人物はすぐ様そこから逃げるようにして走り去った。
何がなんだかわからない拓也。
ついでに今言われた言葉を頭の中で反復すること数秒。
気になることがあるとどうしても興味を注がれるのは好奇心がある人間の性。
拓也もまた例にもれず、好奇心が働いて公園の中へと向かっていった。

「・・・やっぱり気になるしなぁ‥それに他人に危害をくわれる様な人だったら警察呼んだほうがいいだろうし。」

しかしその考えを起こした事を後々彼は後悔する事となる。

歩く事数メートル。
そろそろ公園の中心へと差し掛かり辺りを見渡す。
だがしかし、人はおろか野良猫すら見当たらない。
何も無いので、きっと何処かへ行ってしまったのだろうと思い探すのを止めてジョギングを始めようと振り返った拓也。
その時後ろから同じくジョギングをしているであろう軽快なステップで走る音が聞こえた。
一応人としてこれは挨拶ぐらいしておこうと思って顔をそちらへ向ける。

「あ、おはようござ・・・・うわぁ・・・・・。」

思わず漏らした言葉。
それは「なんじゃあれは!?」という雰囲気を纏っている。

視線の先には爽やかな笑顔でジョギングを続ける青年。
見た目すごく爽やかでとてもかっこいいのだ。
たぶん女性が見れば思わず『キャー!』と黄色い声をあげたくなる感じにかっこいいのだ。
そんな人が額に汗をにじませ朝の澄んだ空気の中を爽やかに走っているのだから絵になる。
だが澄んだ空気と言っても今はまだ寒い。
とても半袖でなんかじゃ走れない。
しかし走りつつこちらに近づいてくる彼は違った。

一味違う、そうあえて表現しよう。

彼は爽やかな笑顔を湛えながら黒のタンクトップを上に着ている。
そこまでは許せる範囲だ。
走っているうちに暑くなって上着を脱いだと無理に思考を向ければ人として許せる。

しかしながら問題は下半身。
このくそ寒い朝の中、短パンで走り抜けるのだ。
と言うかむしろハーフどころかパンツギリギリライン。
見えそうで見えない、まさにそれだ。
別に男のパンツなぞ見たくも無い。

しかも顔はとてもかっこよく素敵な青年なのにその足についているオプション・・・・臑毛で全てが台無し。
これでは彼を見た女性の『キャー!』はまた違ったニュアンスになるであろう。

(ど、どどど、どうしよう・・・へ、変な人にあってしまったよ・・・。)

柏木拓也23歳。(二度目)
このときほど自分の好奇心を呪った事は無いという。

「あ・・・おはようございます!
 今朝は暑いですねぇ〜。」

「へぁ!!
 オ、オハヨウゴザイマ・・・ス
 あ・・・あつい・・・・ですね・・・あは・・・・あははははは。」
(暑くねぇよ!むしろ寒いよ!!!)

あまりの事に固まってそこから逃げ出せなかった拓也はまんまと声を掛けれれた。
そして挙動不審に、それでいて片言で言葉を返す。
ついでに怖いので心内でだが突っ込みも忘れなかった。
相手はそんな事微塵も気にしていない様子に『それじゃぁ!』と終始爽やかな笑顔のまま走り去っていった。

「・・・助かった・・・と言うか‥変な人ってあの人か・・・な?
 つーか・・・危害は無いが・・・・・。」

そこまで言って頭を振るとこの事は忘れようと。
そう思いその場から走って去っていった。

後は半ば無理矢理、無心になって走って、気付けば自宅前に到着。
軽い朝ごはんを食べた後、バイト先へと足を運ぶ。


「おはようございます。」

「おはようさん!
 今日は午後から雨だって言うから客足はあんまり多くねぇかも知れねぇぞ。」

ドアを開け、入った先にいたのは店長。
雇い主だ。
ねじり鉢巻に白い歯がキラリ。
50代半ばの気持ちの良いおやっさんだ。

ここは和食専門の定食屋。
そこで拓也はバイトをしている。
地元での知名度はそこそこで、客足も少なくは無かったが息つかせぬほど忙しいのは昼頃や休日だけだった。
それでお給料は普通のバイト代と変わらないが、それがまた拓也自身にとっては魅力的らしい。

やがて開店時間から3時間ほどし、昼を少しだけすぎた頃。

--ガラララ

「へい、らっしゃい!」

中に入ってきたのは黒いワイシャツを着た長身の男。
なかなかのナイスガイだ。
ふとカウンターから視線を泳がせると客の中にいた女子大生っぽい感じの3人組と。
近所のおばさんどうしの集まりの買い物で寄った風なおばさん4人組。
見事に見惚れている。
そんな人たちの視線を気にすることなく男は静かに席に座った。
メニューをてにとって、しばらく。
時間にして5分くらいだろうか。

「・・・すいません・・・。」

「へい、ご注文で?」

男の声にすぐ反応したおやっさんが聞く。
すると男の口からはとんでもない言葉が。

「・・・カレー・・・福神漬けは多めで・・・。」

ここは和食専門定食屋。
まかり間違ってもそんなこってりしたインド産の洋食様はおいてはいない。
しかも男はちゃっかり福神漬けを多めに頼みやがった。

「あ・・・あー‥すいませんお客さん‥うちはカレーは・・・。」

「・・・じゃあ百歩譲ってカレーコロッケ・・・。」

(全然譲ってねぇよ。)

そう、心で突っ込むその男以外の人間。
しかし気にする素振りは見せず‥と言うか常識はずれな事をまだ口にしようとする男。

「いや・・・うちは和食専門なもんで・・・。」

「・・・だからどうした・・・。」

(おいおいおいおい!!
 「だからどうした」じゃないよお客さん!!)

周りの人間の事なぞ気にせず、さらに男は口を開く。

「・・・和食だろうがなんだろうが飯屋ならばカレーぐらい置いておけよ・・・。
 ・・・だいたい、カレーが洋食なぞ誰が決めた・・・。
 ・・・俺は奴は和でも中でも洋でも無いと思っている・・・。
 ・・・だから俺はカレーを食う・・・。」

言ってる事が意味分からない上に我侭までいってやがる。
そんなとんでもない男は一頻り言い終わると満足したのか諦めたのか。
それとも呆れたのかなんなのか。
溜息をついて店から出て行った。


「世の中にゃぁ・・・不思議な人も居たもんだ。」


そう、呟いた店長の言葉が耳にこびり付いてはなれなかった拓也だった。





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