Anarchism -アナーキズム-


- 00 序章 -



西暦3760年。

この世界に存在する国は九ヶ国。
だが、この世界では正しくは国とは世界全体を示し、それ以外は『地区』として表現されている。

九つの地区と各地区の情報などを管理し、最終決定権などを持つ中央評議会専用地区「アルドリス」で成り立っている。
しかし中央評議会は法に基づき管理する立場であるが、地区を統べるのは各地区に存在する企業である。
それぞれの地区に合わせた特性や、最先端の技術等。世界に先駆けるほどの企業が地区を作り、統治しているのだ。
その中で地区として最大の面積を誇るのは、医療機関として名を知られる『ニスベア社』が治めるラスティアだ。
ラスティアにおける医療の技術はかなりのものであり、人々は大きな病に掛かればラスティアにある病院へと駆け込むのが常となっている。

一見すれば、何の陰りもないようだが世の中は常に表があれば、裏の世界もある。
裏社会において、人の見えざる場所では小競り合いは多く、時には表沙汰にならないだけで、戦闘なども行われたりなどもしている。

そういった世の均衡を崩し、乱す者。言わば犯罪者は総じて

―――アナーキスト

そう呼ばれた。

















昼の平日。忙しそうに道を歩くサラリーマンや、買物をする主婦や子供。道路を走り行く車。
実に何事もなく平穏な昼下がり。世を騒がす凶悪な事件も、世間の大半にとっては新聞の見出しの向こう側の世界。
だがそんな世界は、こんな昼の街中。ビル郡の合間にできる暗い裏路地に入れば日常的なものとなる。
それでも昼間から騒ぎが起きるでもなく、強いて言うならば夜闇が辺りを覆い始めてからの事。
しかしそんな『裏の日常』を崩す者が裏路地を右へ左へと、走り抜けていく。
路地に響く靴音は4つ。その内一つが角を曲がった瞬間、テンポを崩してピタリと止まった。
後から追いかけていたのだろう、3つの靴音も同様に音を乱しながら止まる。

「へっ、行き止まりとはついてねぇなぁ・・・稜々谷」

真ん中の男が腰元からナイフを抜き出しながら言う。
それに別の男は低く笑った。

「アンタが悪いんだぜ。木下
(きもと)の野郎なんかに近づくからこうなるんだよ」

稜々谷は、走って乱れていた息を整えるとゆっくりと振り返った。
男たちはさぞ恐怖に怯え、焦っている事だろうと期待していた稜々谷の表情は予想とは違い、笑みを薄く浮かべていた。

「おいおい、おかしくなっちまったのか? 袋の鼠の状態だっていうのに、笑ってやがるよ」

馬鹿にしたような見下した笑いを遠慮なく浮かべてくる男たちだが、稜々谷の余裕な笑みは変わらない。
男は持っていたナイフを翳して、ジリジリと距離を縮めてくる。

「・・・残念ね」

稜々谷の言葉が放たれたと同時に、右にいた男の断末魔が響いた。
何事かと振り返った瞬間、一閃。今度は左の男が倒れる。
ナイフを持った手は強張り、突然襲い掛かってきた影に向かって震える手で切っ先を翳した。

「な、ナニモンだ、てめぇ、っっ!!」

「袋の鼠は、貴方たちだったのよ」

男の言葉が詰まった。頚動脈を稜々谷のナイフが切り裂いた為だ。
反論や戸惑いを口にする事もなく、ただ恨めしそうな目を向け倒れていく。
ナイフの血を軽く拭き取りホルダーへとしまう。背後から男たちを襲った人物も、その手に持つ刀の血糊を拭き取った。

「ナイスタイミングね、維月」

「あんたがこいつらの気を逸らしてくれてたから、出やすかった」

血糊の取れた、愛刀を鞘へと収める維月へ返事の代わりに笑みを深くして意志を返した。
飛び散り被った血をものともせず、頬についたものだけを軽く拭うと男たちの死体へは一瞥もくれない。
その場から去ろうとする稜々谷へ維月はその後をついていくようにして、同じように歩き出す。

「こいつら、どうするの?」

「放って置いて構わないわよ。鳥が啄んでくれるわ」

顔すら向けずに言い放つ稜々谷の言葉に一度、男たちへと目を向けるがすぐに維月もその場を離れた。






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