我侭に






熱い。


今の幸村にとって、ただその一言だけが今の思考を占める。
理由は簡単である。



「・・・・・・・・政宗公。」

「なんだ。」

「いい加減、離しては下さいませぬか?」



背中から包み込むように、抱きつかれて数刻。
特に何かをするわけでもない。
それはいいのだが、しかしながら問題が一つ。

政宗の体温は少し高い。

おかげで長時間、こうして密着していると暑くて仕方がない。
むしろ、暑いというよりも、熱い。


「何故だ?」


政宗はさも不思議そうに問う。
何故も何も、熱いからだと。少し苛立たしげに言うがそれで離してくれるわけも無く。

「こうして二人で居られる事など、あまり無いのだから居る時ぐらい我侭を言わせろ。」

後ろから肩に顔を埋めて更に強く抱きしめた。

「いつも会うたび、我侭を言われるこちらの身にもなっていただきたい。」

さらりと、流れ落ちてくる政宗の髪の一房を掴み、軽く引っ張る。
痛みは感じない程度。だが一度では無く二度三度と繰り返してみた。
それでも顔を上げない政宗。
動く気配が無い様子に、半ば諦めかけていた。

「ならば。」

突然肩に掛かっていた重みが取り払われると、幸村の顔を覗き込みながら囁く。


「次会う時は、貴様の我侭を聞いてやろう。」


一瞬だけ、呆けたような。驚いたような。
そんな表情を浮かべてすぐに笑う。

「その言葉、忘れずに居てくださるのならば今日は貴殿の我侭に、付き合いましょう。」


互いにもう一度笑みを交わして。
約束を交わした。