なめる






政宗の自室にて奇妙な事が起こっていた。

「政宗公、口を開けろ。」

「・・・解せん。」

腕を後ろに回され、縄で縛られた政宗と。
その目の前には団子を翳し、多分一生の内で何度かしか拝めないであろう満面の笑みの幸村がいた。
いつも余裕気な笑みばかり浮かべている政宗も、さすがにこの状況は好ましくないようで。
ムスッとした顔をしながら口を硬く閉ざしている。

「何をしている政宗公、俺が折角団子を食べさせてやろうというのに。」

「この縄がなければ素直に食べてやるがな。」

「しかし賭け事の条件ではないか。」

幸村がそう言えば、政宗は黙って顔を背けてしまう。
少し前、政宗気に入りの団子屋から団子を買ってきた幸村ははじめの内は普通に政宗を話をしていた。
しかしながら、ただ話すだけでは物足りなくなってきた政宗が賭け事を持ち出してきたのだ。
勝負は簡単。互いに三回サイを振り、合計数の多い方が勝ちと言う単純極まりない戯れである。
それに乗った幸村は条件を一つ出してきた。

「負けた方は勝った方の命令を聞くというのはどうだ?」

「ただの戯れだが・・・まぁ、それも面白いな。」

その話に更に乗った政宗。
結局同意のもと行われたその賭け事は幸村の勝ちであって。
負けたものは仕方ないと潔く負けを認めた政宗は何を命令するのかと聞けば。

「めったに見れない物が見たいから、縄で縛ってみたい。」

言われた内容を理解した頃には、どこから持ってきたのか縄をもって立っている幸村が目の前に居た。
なんとも、ただの戯れに過ぎないというのに屈辱的な事だと思いながらも。
負けを認め、条件を飲んだのも自分だと諦めた。
しかし縛っただけで終らずに今に至るのだ。


「政宗公、ほら、あーん。」

「俺は普通に食べたいのだが。」

「駄目。」

にっこりと笑いながら政宗言葉を一刀両断。
多分、普段は良いようにあしらわれ、余裕のある姿ばかり見てきたせいかその反動だろう。
やたらと幸村は政宗で遊んでいる。

「いい加減食べないと、折角の団子が冷めてしまう。」

「・・・・わかった。」

仕方ないと溜息を洩らして口を開く。
そこに小さく千切った団子を入れて。口に入れられた団子をもぐもぐと噛み始める。
いつもと変わらない団子だというのに状況がそうさせるのか、味が違う気がしてきた。

「たまにはこう言うのも楽しいな、政宗公。」

いいながらもう一つ差し出してきた。
それを食べようと口を開いた政宗はふと、悪戯を思い浮かべたらしく。
一瞬だがいつも見せる笑みが浮かんだ。

「・・ぅわ!?」

「どうした?」

「どうしたではない・・!」

顔を赤くさせて、団子を掴んでいた手を勢いよく引く。
幸村の慌てる様を、舌なめずりしながら見つめる。いつもの余裕の見せる笑みも元に戻っていた。

「ゆ、指を舐めるな!」

「あまりに美味そうだったからな。」

くっ、と笑いながら言えばやはり幸村は一気に不機嫌になる。
勢いよく立ち上がり帰ると言いながら歩き出そうとするのだが。
突然背後から政宗に圧し掛かられ、畳の上に押し倒された。

押し倒された事よりも。
縄でぐるぐるに巻いていたはずなのに何故こんな状況になっているのか。
そちらの方が疑問で幸村はそのままの体勢で、後ろへと振り返れば。

「・・・・政宗公、縄は・・・?」

「この程度の縛りでは、簡単に抜けられる。
 あまり、俺を嘗めない事だな。」

縄抜けをして、不敵な笑みを浮かべている政宗が視界に映った。


こんな事ならば、戯れと思わずもっときつく縛ればよかったとか。
縄抜けを教えた奴一体誰だこのやろう、とか。
思うことは多々あれど。
考える暇など、与えてくれなさそうなその状況にただ幸村は溜息をついた。


「俺は、貴殿に嘗められているのだろうか。」

「いや、お前のそう言うところが可愛いと思うが嘗めた事はない。
 あぁ、指は舐めたがな。」

くっくっと笑いながら。
幸村は政宗のその態度にも、言葉にも。
いちいち突っかかっていたらどうしようもないと諦めた。





こうして、互いの夜は更けてゆく。