誘って






政宗の居城へと着けば、門番など皆驚き戸惑う。それも当たり前だと内で思いながらその場で用件を述べた。
ここで取り繕っても仕方ないと、ただ届け物をしに来たと伝えれば。
内に居る兵へと一人が伝えに行き、その兵もまた城内へとかけていくのが気配でわかる。
その慌てた様子が少々面白く、抑える事もせずに笑みを浮かべ待つ。暫くすれば現れたのは片倉かと思いきや成実で。
政宗と似た顔つきをしているものの纏う空気はやはり違う。
だが、頭に巻いた女物の反物のはぎれを見れば、根本は似ているのだなと頭の端で思いながら見つめた。

「それで、真田殿。一体どのような用件で?」

「ああ、突然来て申し訳ないとは思ったが少々珍しい物を手に入れた為、政宗公に是非と思って。」

用件の程に嘘は無いのだが、しかしそれだけの為にわざわざ連絡もよこさず突然現れるのは不自然極まりない。
訝しげに幸村を見る成実はその場で少し考え、結局そのままその場に留まっていても話は進まないと判断したのだろう。中へと通される事となった。
中へ入り馬を厩番に任せ、成実の後を着いて歩きながら少しは慣れてきた城内を案内される。
通されたのは以前一泊した際に与えられた、言わば客室。一応客として迎えられたのだろうかと考えながらも大人しくそこで待つことにした。
だがいつ相手が来るかもわからないというのにただ黙って待っていられるほど、幸村は退屈になれているわけではない。
結局持っている荷物の確認をすることになったのだが何とも言えずそれはあまり意味をなさない。
本当にただの暇つぶしである。

「突然来たから文句は言えないが・・あまり待たされるのも辛いものだな。」

障子を開け、そこから見える庭を眺める事で気を紛らわせる事にして暫く。
サラサラと流れる木々の葉を目で追いながらただ時が過ぎるのを待つ。

結局の所、手の空いていたであろう成実が部屋に訪れ政宗が来るまでの間、話し相手となる事に。
見た目は政宗と似たところがあるものの、性格のほうは似たところと言えばやはり視点の違いだろうか。それぐらいである。
政宗よりも素直な面が見受けられた所為か、どうにも幸村の悪戯心を擽る。
おかげで色々とからかったりして一方的に遊んでいた為か時間の流れはやけに早く感じ、政宗が来る頃には成実は少々泣き出しそうになっていた。

「幸村・・・貴様成実に何をしていた?」

「話をしていただけですが。」

にこりと笑いながら答える幸村を見た後、成実へと視線を移せばその心情がありありと表情に出ていた。
嘘をつけ、と言いたそうな顔を見て一つ溜息をついて成実へ労いの言葉を向け部屋の中へと入る。
成実は政宗と入替りに部屋を出る。廊下へ出たあとはどうにも早足でその場を去っていった。

「あとは構わんからもう下がっていろ。」

控えていた女中へ言えば深く一礼を返し下がっていく。
完全に辺りに人の気配を感じなくなってから、幸村へと改めて声をかけた。

「で、急に何用だ?」

「用件は伝えたはずだが・・・まぁいい、これを貴殿にやろうと思ってもってきただけだ。」

言いながら差し出した香炉。それを見て少しだけ驚く政宗。
たったそれだけのために連絡も無しにわざわざ来たのかと思い、幸村へ問いかけようと顔を向ければ変わらぬ笑顔。
その笑顔を見ただけで、政宗は幸村の言葉に偽りはないと何か確信めいた物を感じた。

「珍しい型の香炉だな。」

「そうなのか?俺はあまり香など焚かぬからな。
 宝の持ち腐れとなるよりもいいと思って持ってきたのだが。」

本当はそれだけではないのだが、ばれては元も子もない。
平然とした態度で言ってのけるのは、それもまた真実であるから故だろう。
嘘は、一切言っていないのだ。ただ真実を全て話していないだけである。

「わざわざすまんな。折角だ、焚いてみるか?」

「そうだな、丁度それを買った時に着いてきた香がある。」

政宗の申し出に内心しめた、と思いながらもけして悟られないよう。
自然な動作で懐からくノ一から貰った薬を煎じた香を取り出した。
それを政宗に渡せば何の疑いも無く、なれた手つきで香を焚く準備を整えていった。
ほんの少しすれば少し甘い香りが漂い始める。

「中々の香りだな。」

「なるほど、こう言うものなのか。」

ただ正直にそこは感心する幸村は、煙を吐いていく香炉を見つめていた。
正直長い間煙を吸っているわけには行かない。なにせこの香には媚薬効果のある薬が煎じて混ぜられているのだ。
政宗だけでなく自分まで効いてしまっては本末転倒である。
いつ効果が現れるものかと、気持ち政宗の様子を窺っている幸村だったがしかしおかしい事に、政宗にこれといった変化が見られないのだ。
薬は遅効性のものなのかと思いながらも煙は確実に幸村の体内をも侵食していく。
さすがに拙いと、思ったときには既に遅く。部屋を出ようかと身動ぎした自分の動きにすら体は反応してしまった。

「・・・っ、」

「どうした、幸村?」

「な、なんでもない。」

顔を背けて言うが、その動作も口調もあからさまに怪しいものだと幸村自身も思えるもので。
当然政宗が気付かないはずは無い。
意地の悪い事に、これでもかと言うほど優しい手つきで頬に触れてきた。ビクリとそれに反応する。

「久しぶりに会ったからか?ずいぶんと今日は昂ぶっているようだが?」

「そんな事は・・・・ぁっ、」

触れてくる手を払いのけようとするのだが、逆にその手を掴まれ畳に押し倒される。
そのまま間を置かずに首筋に顔を埋め軽く舐めあげれば幸村の口から小さく、小刻みに声が漏れ始める。
元々香自体に耐性が無い為か、煙に含まれた薬の廻りが早い所為で体はいつも以上に過敏に反応を示す。
幸村の声を楽しげに聞きながら、優しく身体の上を滑るようにして手を這わせる政宗は、一旦体を離して見下す。

「俺に一服盛るなんて無駄な事をしたな。」

「なっ、き、気付いて・・・っ」

「やはり何かしたな貴様。」

幸村の言葉にニヤリと、人の悪い笑みを浮かべる。それを見てはっとする幸村。
はめられたと。知ったときには後の祭り。ただ目の前には楽しげに笑みを浮かべる政宗が、いつも以上に勝ち誇った顔をしているだけである。
悔しげに顔を背けて唇を噛むが、既に体は昂ぶり息は乱れ始めていた。

「まぁ、貴様の反応を見れば何を香に混ぜたかなど分かるが・・・
 しかしそれほどまでに欲求不満か?」

「ち、違うっ・・・・!」

「何はともあれ、俺は色んな物に対して、耐性をつけているからな。
 こんなものではどうともならん。」

ただ悔しげに顔を歪ませて、政宗の言葉を聞く幸村は何も言わず。
変わりに政宗の着物の袖を強く掴むだけである。
幸村の様子を楽しげに見つめながら手はしつこく体を這い回る。
与えられる中途半端な愛撫にただ幸村は荒く息をつくばかりで。目を強く瞑り抵抗もままならない。
既に脳の半分は融けてしまっているような感覚があり、何も考えず受け入れろと言う言葉と流されるなと言う言葉がぶつかり合っている。
そんな幸村の葛藤すら知らない政宗は、這う手をそのまま着物の合わせに差し入れ、胸を弄り突起を指で弾く。
背中を浮かせて先ほどよりも更に、息を荒くさせる幸村。瞑った目を開ければやはり、先ほど同様の笑みを浮かべ見つめてくる政宗が視界に写った。

「ッ、き、貴殿は・・・ッ、」

「なんだ?」

問い掛けながら、しかし手の動きは止めない。

「いつ、も・・・ぅっ、ぁ、・・余裕が、あっ、て・・・ずる、い・・・・っ、っぅっ」

幸村の言葉を聞いた政宗は、手の動きを止めてただ見つめる。
熱と薬に浮かされた頭で、なけなしの理性を引き出して幸村は政宗の方へと向いた。
何かを問いかけようと口を開きかけたが、突然何とも言い難い感情を表した笑みを浮かべられ口を噤んでしまった。

「俺がいつも余裕、か・・・・確かに他の事に関しては余裕がある、だが・・・・。」

「事貴様に関して余裕で居られた試しが無い。」

政宗から向けられた言葉と笑顔に、更に息を飲むようにして見つめる。
大きく目を見開いて、ただ見詰めるばかりの幸村の頬を撫ぜながら今まで交わした覚えは数えるほどの優しい口付けを、一つ二つと重ねた。

「あの時、言ったはずだ。俺はお前に溺れていると。」

幸村の呼び方が変わるのは合図のようなもので。

「、やはり・・・貴殿は、っずるい・・・、」

普段は何処までも見下しているような態度だというのに。こういうときばかりはただ、甘く囁いて。
耳元へと唇を近づけ、息を吹きかければ幸村は強く目を瞑り体を震わせる。

「それで、お前はどうされたい?」

ツイッと首筋に指を這わせれば過敏に反応を示す。
意地の悪い質問に、熱に浮かされ涙で濡れた目で睨みあげるが効果が無い事など承知の上である。
ただ楽しげに、もう一度聞いてきた。
これ以上、反抗しても痛い目を見るのは結局自分なのだと腹を括る。

「もっと・・・ッ、触って、・・・・。」

いつもならば言うのにかなりの時間を要するというのに、薬の効果もあるのか少し躊躇っただけで。
その態度に気を良くしたのか政宗は焦らす事はせず、幸村の着物を剥いでいくと片手で胸の突起に触れ、もう片方は下肢へと伸びていった。
与えられる愛撫に背を弓なりに反らせ快楽に体を振るわせる。唇を噛んで、洩らすまいといつもは聞かせない声も今は惜しげなく。
押し隠そうとする痴態を抑える事もせずに今はただ、政宗から与えられる快楽に酔いしれて。
その様がより、政宗の内にある興奮を引き起こしていく。

「ひっ、ぃあ、ぁぁっ、・・・・も、ぅぁ、・・イ、く・・・っっ、!!」

「っ、いいな・・・なかなかに、クる顔だ・・・・、」

溢れる先走りで音を立て幸村のソレへ与える愛撫を激しくさせる。
止めど無く襲い来る感覚に声を上げて目を閉じる幸村。闇に閉ざされた視界はより一層、鼓膜に響く音を捕える。
卑猥な音を立てながら強く扱かれついには果ててしまった。
いつもより早い絶頂もまた、部屋に充満する媚薬の香りの為であろうか。
荒く息をつく幸村の足を持ち上げて秘所を曝け出す。その感覚に体を過剰に反応させる幸村は、それでも抵抗はせずにただ次に襲い来る衝撃に備える。
幸村の吐き出したもので濡れた指をそこに宛がうとゆっくりと中へと一本埋めた。

「ふぁっ! ぁ、ぁ・・・や、たりなっ・・・、」

「まぁ、まて・・・いくらなんでも、慣らさんと辛いだろう?
 今日は素直だからな、その分は優しく抱いてやろう・・・。」

「、ひっ、ぃ、」

中へ入れた指をゆっくりと動かし、しかしそれでも好いところは外して中を慣らす。
段々と慣れてきた頃にもう一本指を増やして中を更に暴こうとすれば、惜しげなく幸村の口からは声が漏れ出す。
それを心地好く聞きながら、先ほどよりも少し激しく指を動かす政宗。
やがて指は三本に増え、不規則な指の動きで中をかき回す。動かすたびに体を軽く跳ねさせる幸村を見つめながら更に激しく。

「あ、、あぁ、あ・・・・ふっ、あ・・ぃ、、」

一度達し萎えていた幸村自身はまた反応を示していく。
それを見て、そろそろ頃合かと一気に政宗の指はそこから引き抜かれ。変わりに宛がわれたのは今まで何度も飲み込んできた政宗のソレ。
物足りなさ気にひくつく秘所へと一気に挿れられて、始めは少し苦しげに顔を歪ませるが何度も突き上げればすぐに覚えている快楽を体は見つける。
与えられる快楽を余す所無く貪ろうと。体は何処までも貪欲に。
空を泳ぐ両手は伸ばされ、そのまま政宗の背へと回すとしがみ付いてより深く、中を暴れる政宗自身を感じようと眼を瞑った。
眉を寄せて、何処までも快楽を追って。

「ひぁ、っ、あぁ、ああ、あ、   も、イっ、ゥ・・・っ   !」

「っ、 構わん・・イき、たければ、・・・イけば、いい・・・・。」

より一層強く、中へと腰を推し進め奥の奥まで暴こうと突き挿れた。
一際高い声で絶頂を迎える幸村。政宗にしがみ付くようにしていた為、吐き出された精液は互いの腹を汚す。
中の締め付けに声を一瞬詰まらせて政宗もまた、幸村の中へと惜しげなく吐き出した。
広がるその感覚に、体をビクビクと震わせて達したばかりで過敏になっている体はそれすらも快楽へと成り代わり。
荒く息をついてしがみ付いた腕はそのままに。中にまだ挿れたままで政宗が腰を動かせば反応を返す。

「っ、!?」

「まさか、これで・・・終わりと思ったか?」

驚き目を見開いて政宗の顔を見れば、至極楽しげな笑みを浮かべていた。
あまりの事に何と言っていいのかすらもわからなくなってしまった幸村も、まだ薬に浮かされた頭の端で流されてしまえと。
いつもなら文句が飛ぶというのに、今日に限っては媚薬によって理性も剥ぎ取られ。そのまま抱きすくめて座位へと持ち込んだ。

「ひ、ぁっ!」

己の体重がかかりより深く、政宗を受け入れることとなった幸村は今までに感じた事が無いような戦慄が背中を走る感覚を味わう。
震えた手で政宗の肩を掴めば、それを合図と受け取り下から容赦無く突き上げ始めた。
一突きする度に幸村の口からは喘ぎが漏れる。
いつもは焦らすというのに、今日に限って幸村の好い所を的確に狙う。政宗の攻め立てに早くも限界を感じる幸村はただ感じるままに。
行き過ぎた快楽に思考が浮かされただ喘ぐばかりで、何かを言おうとするが言葉は全て喘ぎに変わり果てる。
何かを言う前に、幸村はまた達した。その際の強い締め付けに、政宗も幸村の中に再度吐き出す。

「はっ、ぁ、っ!!」

「まだ、だ・・・、」

言いながら、吐き出した所為で溢れる中に挿れたままのソレを突き動かす。
達したばかりの中は酷く過敏で腰を突き動かせばその分、体が跳ねそこからまた快楽の思考の底へと引き摺られる幸村。
休む間もなく、また激しい律動が繰り返されて。結局、その後眠る暇すら与えないと思えるほどに激しく求められ。求められるままに、答えて。
朝起きたときには幸村の声は枯れていた。



「・・・もう、二度と・・・こんな事しない・・・・。」

「珍しく反省しているようだな。」

「違う・・・後悔してるんだ。」


布団にうずもれて深く項垂れる幸村と。その横で煙管を蒸かしながらそんな幸村の様子を楽しげに見つめる政宗の姿が見られる。
やっていられないともう一眠りしようとした幸村は、頭の端でやはり行きに土産を買っておいてよかったと思うのだった。



END