捻じ伏せて






どれだけ時間が経ったのか。ものの数分なのか、何時間も経っているのか。
昼に比べ夜は変化を確認するにはあまりにも生き物の動きが少ない。
ただ頼るは月の傾きだけだが生憎、二人の入る場所から月を眺めることも出来ず。
何より互いにその様な暇など無い。



「っ、ぅ、  ぅぐ、・・・っ」

両腕と自身を紐で戒められ、中は容赦無く突き入れらる。
痛みだけしか感じず、ただうめくばかりの幸村に対し政宗はただ行為を進めるだけ。
さすがにずっと中を犯し続けていたためかはじめに比べ、幾分かは動きやすくなりはした。
しかし幸村が感じる苦痛に変わりは無い。
だが、そんな苦痛ばかりの中にまた別の感覚が顔を覗かせる。

「、くっ、ぅ・・・・、 ふ、っぁ、 、」

ある一点を掠めた時、ビクリと腰が少しだけ浮いた。
その変化に政宗が気付かないはずは無いというのに。

「、どうした・・・? 目で訴えても、何が言いたいのか俺にはわからんぞ?」

何も気付いていないと言いたげな口調で幸村へ言い放てばただ、悔しげに顔をゆがめるばかりで。
けして求めるような事は口にしない。
いくら求めようと、戒めを解かなければ苦しいことには変わらないのだ。
それなら、それまで耐えて見せようとせめてもの抗いを続ける。

幸村の強情の程に、政宗は言葉ではなく行為で応えた。
ゆっくりと腰を進め、掠めた幸村の好い所を二度三度と突く。

「っ、く、っぁ、あ・・・っ、  」

突かれる度に、声があがり腰が浮いてくる幸村を楽しげに見ながら少しずつそこを攻めていく。
立て続けに同じ所を攻められイきそうになるが、戒めがそれを許さずただ苦しさがますばかりで。
そうかと思えば今度はまた、見当違いのところを突いて焦らしてくる。
一度内側に上げられた熱が中で燻り、苦しさは余計に増して中で暴れまわった。
生理的な涙を零しながらただ幸村は政宗に翻弄されるばかりで。

イきたいのにイけず。苦しいのにその中の快楽に踊らされ。
自分ではどうすることも出来ず相手に完全に主導権を握られている事が屈辱的でたまらない。
それでも抵抗も出来ず政宗のいい様に抱かれるばかりで。幸村はただただ、この行為が早く終ればいいとそればかりを思う。
何度も好い所を突きギリギリまで追い詰め。別の所を攻めて熱を燻らせる。
気が遠くなるほどに繰り返しその行為に翻弄され、自分が今どうなっているのかなどという事すら幸村にはわからない。

「さて、っ貴様は・・・どうされたい?
 イきたいか?それともまだ・・・。」

「ぅあ、あっ、 、も・・・い・ぁ・・っぅ、」

多分無意識なのだろう。幸村はただ苦しいばかりのその行為を早く終らせたくて政宗の問いに答える。
切れ切れに答えたそれは解放を求める声で。
政宗は幸村の両手を抑えていた戒めを解くと自分の上に跨るように引き寄せ抱き上げた。
それにより、より深く政宗のそれは幸村の中へと入り込み。その衝撃で背を仰け反らせ音にならないほどの高い声を発して。
けれどまだ根元を抑える戒めはそのままの為より、苦しみは増すばかり。
それでもお構いなしに、何度も的確に好い所を突き上げる政宗に、幸村はただ抱きつき突き上げられるだけ。

一層高い声を上げ始めた幸村の様子を見て、政宗は最後の戒めを紐解いた。
途端に幸村の声は際限なく。政宗にしがみつくように無意識のまま快楽を貪る。
2度ほど、突き上げれば今まで抑えられていたこともあり幸村はそのまま果ててしまった。
政宗も、中の締め付けに顔を歪ませそのまま何度か腰を進めて中へと吐き出す。

「っ、は、・・・おい・・・?」

ぐったりと、自分に凭れかかり身動きも取らなくなった幸村の背を叩きながら問い掛けるが、返事はまったく無い。
やりすぎたと。正直に思った政宗はそのまま暫く動かずに居た。

「・・・まったく・・・・俺も、とんだ男に捕まったものだ・・・・。」

今まで他人を見下すかのような態度と表情ばかりを浮かべていた政宗の初めての。
自嘲ぎみな笑みであったが生憎、幸村は気絶してしまっている為にそれは見る事は無かった。















雀がかすかに鳴いている声が、耳に響く。
眠りが浅くなった幸村はその声を無意識の中で捉え、次第に覚醒していった。
うっすら目を開ければ見慣れない部屋が視界に飛び込む。
そこでやっと自分は今、奥州にいるのだと思い出した。そして、そのままの勢いで昨夜のことも同時に思い出す。
途中までの記憶しかないため、そのあと自分はどうなってしまったのか。何をされてしまったのかが分からず余計に不安である。
起きようかと、体を少し動かしたが腰と下半身への激痛が走った為に結局そのまま寝転がっている事にした幸村は
それでも痛む体を少しずつ寝返りを打つためにずらしていった。
しかし、今まで痛みとその状況に捉えられていた幸村は初めて別の違和感を感じる。
なにやら背中にぬくもりを感じるのだ。そして自分を包む腕がある。

「?」

不思議に思った幸村は痛む体を気遣いながら、体を反転させれば突然目の前に現れたのは政宗の顔。
驚き身を引こうとするのだが痛む体は言う事を聞かず。しかも自分の体を包むように抱きしめる政宗の腕もまたそれを阻止する。
包む、その腕のぬくもりと。昨夜の行為の乱暴さに比べ驚くほどに優しいその腕の力になにやら不意にも動悸が早鳴る。

「・・・・くそ・・・」

小さく呟いたその声は何に対してなのか。翻弄された自分へか。翻弄した相手へか。
しかし少なからず昨夜の行為を後悔しているというわけではないだろう。あれはどちらが仕掛けたのかなどはっきりと分からない。
だが互いに一応の事は合意の上でやったのだから別にそれ自体に怒りは沸いてこない。
それでもあんな風に、ネチネチと人を攻めて焦らして。苦しい事ばかりだった事には変わりないので行為の内容に対しては怒りが湧いてくる。
不意に、その腕に力が込められた。

「・・・・起きておられるのなら、人が悪いですぞ政宗公。」

「起き抜けに、貴様の膨れ面なのはどうも解せんな。」

目を開けて幸村の言葉にそう返しながら起き上がる。
幸村は、いまだ痛みが引かない為に横になったままだ。それを咎める事もなく政宗はさっさと朝の身支度を進める。
なんとなく、それをボケっと見ていた幸村は思わず自分の着ていたものに目をやる。

(確か、この部屋にきたときは違うものを着ていたような気がするのだが・・・?)

「政宗公、俺の着物は・・・・。」

「あのまま寝たら気持ちが悪いだろう。
 それと貴様が気を失ったあとに後始末もしておいた。今はもう気持ち悪さは無いだろう?」

不意に生じた疑問を投げかければそんな答えが返ってくる。
幸村の中でなんとなくだが始めの頃に比べて政宗に対しての印象は少なからず変わっていった。
政宗は一通り着替えると幸村の寝転がる布団脇まできてしゃがみ込んだ。
何だと思い見ていた幸村はそこではじめて。
政宗が眼帯を外していた事に気付く。戦場へ出て戦をする武士として、別段怪我に対し驚く事は無い。


しかし、なんとなくだが政宗のその眼帯の下は。禁忌な気がした。
そして、その傷を見れた事を幸村は何故か。


「何だ、俺の顔に何かついているのか?」

「・・・・・・・いや、何でも・・・・・」


先ほど、感じた胸の高鳴りに似たものを、再び感じていた。

そんな幸村の内心を知ってか知らずか。政宗は眼帯を着け終えるとはじめて、幸村に対し柔らかく笑った。

「もう少し寝ておけ、片倉には俺が言っておこう。」

幸村の言葉など待たずそのまま部屋を後にしようとする政宗の背へ。一言問う。

「貴殿は、俺を何と思われているのか。」

障子を開け、遮られていた昇り始めの朝日が入りこむ。
まだ早朝の為、ほんの少し冷たい空気が部屋へと入り込んだ。
外の空気に触れてやっと、靄のかかったような頭の中が鮮明になる。

幸村の問いに、足を止めて振り返ればその表情はやはりこの二日間に見慣れた笑みで。
何故かその笑みの方が、先ほどの優しい笑みよりも安堵を覚えた。

「さあな。正直貴様をどう思っているかなど俺にもわからん。
 だが、嫌いではない。」

そこまで言って、後は何も言う事はないという意思を行動で示して部屋を出て行ってしまった。
一人残された幸村はまだ痛む体を布団に横たえて顔を埋める。
ただ眠りにつくには既に目が冴えていて。
かといって起きるにはあまりにもその布団に残されたぬくもりが心地好く。
それでも布団にも、自分にも政宗の匂いが纏わりついて。今だ捉えられているかのような感覚に多少なりとも苛立ちを覚えた幸村だった。



END →「捕えて、囚われて」に続く